そこには100人近い生徒達が群がっていた。
「一体、何が始まるんですか?」
「まあ見世物というか、見せしめですね」
「見世物? それは、一体....」

「いや~っ! やめて~っ!」
智子は声の上がった方を見上げると、体育館の天井から大きな物体がゆっくりと降りて来た
「斎藤先生、なんですか一体!」
「すぐにわかりますよ...吉田先生にも気に入って頂けると思いますよ」
斎藤は卑らしい笑みを智子に向けた。
「あ...あれはっ!」
X字の磔に全裸で括り付けられた女性の姿がゆっくりと智子の前方に降りて来た。
「裸じゃないですか! 何をするんですか、一体!」
「彼女は校則を破ったんですよ。だからお仕置きされるんです。 ただそれだけです」
「ただ、それだけって...男子生徒だっているのに! 早く何とかしてあげてください」
「それは駄目です。 彼女は校則を破ったんですから、それ相応の罰を受けなければいけないんです。それがこの学園の決まりですから」
「それにしたって....あっ!」
智子は磔にされた女生徒の股間にあるべき翳りが無いことにやっと気がついた。
「ヘ、ヘアーが...ない....」
「ああ、アソコの毛ですか? この学園では女性であれば例外なく、そう教師でもオマンコの毛をツルツルにしなけ
ればいけないんですよ、吉田先生、あなたもね、ヒヒヒッ!」
「れ、例外なく....?」
「あれ? 教頭先生に聞いていませんでしたか? おかしいなぁ、校則で決まってるのに....まあいいや... そ
れじゃあ私が教えてあげますよ。 女子生徒は入学したと同時に、教師は学園に来た日の全授業が終わるまでに剃らなければならないんですよ」
「....そ、そんなぁ....」
「ということは後20分ないですよ、吉田先生」
「ええっ!」
「校則を破ったら教師でもお仕置きですからね!」
智子は両脚の力が抜けていくのを感じた。

「三島君!」
低く落ち着いた男性の声が廊下に響いた。
潜入捜査官 三島みどりが振り返ると、特殊捜査局 局長の金本が立っていた。
「はい、なんですか局長?」
「少し話しがあるんだが、私の部屋に来てくれないか?」
「はい、それではこの文書を上村さんに渡したら、すぐに伺います」
「ああ、頼むよ」
みどりは小走りに自分の部屋に戻っていった。

コン、コン
「失礼します!」
みどりは金本の30畳ほどもある部屋に足を踏み入れた。
金本は自分の席にはついておらず、手前の応接用のソファーに腰を掛けて腕を組んでいた。
いつもであれば、自分の席で捜査官に命令を伝える金本がソファーに座っている事に一抹の
不安を覚えた。
金本は何も言わずに目を閉じ、ソファーに座ったままであった。
難しい顔をした金本の顔がみどりの不安を更に煽ったが、部屋の入り口で立ち尽くすしか今のみどりには方法がなかった。
「...あ、あのう...局長、どんな御用でしょうか?」
その言葉に我に返ったかのように、ピクッとして目を開けるとみどりを射抜くような目で暫く見つめていた。
「すまなかった、気がつかなかったよ。 座りなさい、話しがある」
みどりは金本の前に座ると、形のいい脚をそろえて斜めに傾けた。
「実はかなり込み入った話しではある」
「....」
みどりは金本が何を言い出すのか不安でしょうがなかった。
通常であれば命令と潜入のための資料を渡されるだけで済んでしまうのだが、今日は違っていた。
「今回のミッションは特殊で、本来であれば特殊捜査局の仕事ではないんだが....」
「それは、どういう意味なんでしょうか?」
「大臣クラスの高官のお孫さんを助け出すという任務だ!」
「えっ! それって!」
「N県にある全寮制の私立高校にいるお孫さんを学校から連れ出さなければならないんだ」
「それでしたら、別に私達が動かなくてもいいのでは....?」
「君の言う通りだ。 だがその学校が結構問題があって、ちょっと特殊な団体なんだ」
「特殊な?」
「今の若年層の荒廃ぶりや社会の廃退は学校教育にあるという信念の元、以前の日本に戻そうと男尊女卑を復
活させるための学校らしい。男は男らしく、女は女らしくというのがポリシーらしいが....」
「時代錯誤も甚だしいですね、まったく!」
「うむ。 お孫さんが学期終了後に家に帰ってくると、活発だったのがどんどん暗くなっているということなんだが、
身体にも鞭で打たれたような後があったらしいんだ」
「鞭で?」
「お孫さんは両親達にはわからないようにしているらしいんだが、母親が気がついたらしい」
「転校させたらどうなんですか?」
「学期末に家に帰って来れるのは1年生の時だけで、2年生になると卒業するまで家に帰れないらしい」
「でも自分の意志で学校を抜け出す事だってできるんじゃないですか?」
「場所が問題なんだよ」
「どこなんですか?」
「N県にある死火山を知っているかな?」
「はい、結構大きいですよね」
「あの山の周りに樹海があるんだが、その中のどこかにあるという話しらしい」
「樹海ですか? 富士山にあるような?」
「そうだ。 死火山とはいえ噴火していた山の周りだから富士山の樹海と一緒で磁石も使えないそうだ。樹海のか
なり深い所にあるという情報は掴んでいるんだが、どこにあるかは全く不明だ」
「学園から歩いて出て行く事は不可能と言う事ですか?」
「そういう事になるだろう。 家に帰った生徒が学校に戻るのも学園のバスを使うらしい」
「私が潜入してターゲットを見つけた時点で学園から連れ出せばよろしいわけですね」
「以前、矢野捜査官が似たような状況で無事に任務を完遂した事があったから矢野君に任せようかと思ったのだが、彼女は別の任務で潜入中だ。 私は君に頼るしかない状態だ」
「つれ出すぐらいであれば、そのバスをなんとか手に入れさえすれば大丈夫です」
「これは、依頼のあった方からの言葉だが、もし連れ出す事が不可能であれば学園を灰にしてもいいという事だ」
「灰にしてもいい....これはどういう意味なんでしょうか」
「額面通り受け取ってくれて構わない。 そのぐらいの覚悟は出来ているということだろう」
「その学園の経営者は一体誰なんですか?」
「依頼者と同レベルと思ってくれて構わない」
「それじゃあ...現在の内閣の....」
「その先は言わないほうがいい」
「....はい、わかりました....」
「これは通常の任務とは違う。 君には断る権利がある...どうする三島君?」
「....やります。 私にやらせてください!」
「わかった...ありがとう、三島君...恩に着るよ」
みどりは不安であったが、ちづるに出来て自分に出来ないわけはないという自信とちづるだけが潜入捜査官ではないという事を実証するチャンスと判断した。

みどりは潜入捜査官1号で、着任当時は警察機構のどこに行っても冷たくされ、風当たりが強かった。
実績も中々上がらずに、みどりは焦っていたのだが、タイミングが悪かった事と、おっちょこちょいな性格が災いしてか、いつも詰めが甘く潜入捜査官なんていらないのではないかというところまで追いつめられていた時に矢野ちづるが潜入捜査官として着任してきた。
ちづるはハーフのような美しい顔と抜群のスタイル、さらに人当たりも良く、なにより着実に実績を上げていった。
その実績に見合うように特殊捜査局の人員も徐々に増えていった。
みどりはちづるに負けてなるものかと今まで以上にがんばり、ちづるに対するライバル心をむき出しにしてそれなりに実績も上げられるようになっていった。
しかし特殊捜査局内や警察機構内部では潜入捜査官二人目のちづるが特殊捜査局のエースと認識されていた。
みどりはそれが腹立たしく、いつかちづるを見返してやるという一心で今までの任務をこなしてきた。


「今回はそういう事情があるために、情報収集だけではなく犯罪者を検挙する権限を一時的に与えられることになった。もし犯罪行為があった場合には、警察官として行動するように。 それから灰にしてもいい云々の件は三島君自身で判断して旨くやって欲しい」

(私次第か....)
「責任は私と依頼者が取ることになるだろう。三島君はその辺は気にせずに頑張ってくれ」
「はい、わかりました!」
「それでは、この資料を良く読んでおいてくれ。 今回の任務はバックアップが難しいだろうからくれぐれも気を付けるようにして欲しい。 以上だ」

みどりは自分の部屋に引き返すと、自分のバックアップ担当者の上村泉美に今回の任務のための身分証明証等を受け取った。
「今回は、吉田智子で潜入してください。免許証、住民票、学園に提出する資料関係、その他諸々はこの封筒に入っています。普通だと現地まで車で移動しますが、どこまでが学園の監視エリアになっているか不明なので電車で現地まで移動してください。私達は近くのホテルに待機しています。連絡は取れないでしょうが、携帯電話と無線は持っていってください」
「ありがとう、わかったわ」
「智子さん、頑張ってくださいね。私応援してますから」
「ありがとう泉美ちゃん」
みどりは任務が終了するまで、フォロー役の泉美、局長の金本、更には部内のスタッフにまで吉田智子という名前で呼ばれる。これは不測の事態に自分の名前を間違えない様にという配慮から、このような規則になっている。

みどりはこの任務が終わる間演じる事になる吉田智子の運転免許証をみながら、つぶやいた。
「智子ちゃんは、久し振りね...よろしく頼むわね」
智子は自分の免許証にウィンクした。

「それじゃあ、学園の方には智子さんから採用試験等の手続きのための連絡をしてください。 教師が足りないみ
たいですから不採用になるような事はないらしいですよ」
「そうなの....その方が助かるけどね....」
「それじゃあ、この後は潜入行動に入るまでの潜入準備期間になります。 気を付けて下さいね」
「ええ、行ってくるわ」
智子は潜入の準備をするために自分の家に帰っていった。