翌日の朝11時には智子はN県のとある無人駅にたった一人で降り立った。
電話で連絡してFAXで履歴書を送ったところ、全身の映った写真をFAXしてくれと言ってきた。
それも水着かレオタードという指定だった。
嫌な気分になりながらもなるべくそれに近いものを送った所、泉美の言う通りその場で採用になり、明日から来てくれと、とんとん拍子に話が進んでいった。

2時間に一本しか電車が来ないようなところで、駅前にはお店と呼べるようなものは古ぼけた食堂だけであった。
駅前にあるカード電話が近代日本との唯一の接点のような気がした。
「おかしいわね、迎えの車が来ている筈なんだけど...」
駅前にはそれらしき車はどこにもいなかった。
普通であれば駅前にはタクシーの一台ぐらいいるものだが、タクシー乗り場とおぼしきものすら見当たらなかった。
「すごいところね...この近辺に人なんか住んでるのかしら?」

智子は気付かなかったが、少し離れたところにパジェロが一台止まっていて、その中から双眼鏡で智子のことをジッと見ている男がいた。
「中々良い女じゃねえか....胸は小さいな....」
男の目が智子の身体を舐めるようにして見ていった。
男の不躾な目は智子のジーパン、薄いカーディガン、Tシャツ、ブラジャー、パンティーを一枚づつ脱がしていき、全裸の智子の姿を想像して股間の欲棒をそそり立たせていた。

智子はちづるのハーフのような顔とは対照的に日本風の丸顔で、ぱっちりした二重の目にポッテリした少し厚めの唇をしている。
少し茶色がかった肩までのワンレングスはサラサラとしていて、触ってみたい衝動にかられるような美しさだった。
前までは肩甲骨の下ぐらいまであるストレートだったらしいが、低い背がよけい低く見えると言われバッサリと切ってしまったという事だった。
27歳とはいえ笑顔が良く似合う可愛らしい感じの小柄な智子は、誰もが振り返るような美人ではなかったが健康的な魅力のある可愛らしい女性である。
スタイルも胸が小さいというコンプレックスを持っているようだったが、ほっそりとした智子はスタイル抜群だった。

「それじゃあ、行くとするか...」
男はエンジンをかけるとギアを一速に入れて、軽くアクセルを踏んだ。

砂利を踏みしめるような音に振り返ると、自分の方に向かって4ドアのパジェロがゆっくりと近づいて来た。
少し身構えた智子の目に、30歳前半の日焼けした肉体労働者風の男がフロントウィンドー越しに見えた。
智子の目の前に助手席のドアを近づけると、スーッと窓が下に降りた。
「吉田先生ですか?」
「はい、吉田智子です!」
「私は、官能学園の国語教師の斎藤です、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「それじゃあ、乗ってください。 もう授業が始まってますから、早いところ学園に行きましょう」
斎藤は車を降りてスーツケースを後部座席に放り込んだ。
智子は助手席に滑り込むとドアを閉めてシートベルトをつけようとしたら、すごい勢いで車が走り出した。
なんとかシートベルトを付けると、智子はこれから走る道を、学園と駅をつなぐ道を覚えようと意識を集中した。
その目的を知っているかのように斎藤は智子に話し掛け、なんとか自分の方を向くようにしむけているようだった。
道自体はほとんど一本道であった。
(これなら大丈夫ね...早いうちに見つけて逃げ出すことにしましょう....)
1時間ぐらい走っただろうか、その間にすれ違った車は一台もなかった。
脇道に入っていくと目の前に樹海が広がっていた。
樹海に沿ってしばらく走ると、樹海の中に通じる道にぶつかり、左折して樹海の中を突き進んでいった。
「ところで吉田先生は自分でうちの学園を希望したって聞きましたけど」
「ええ、そうですけど...」
「うちの校風とか、そういうたぐいのものは聞いてます?」
「いいえ、ただ不良どころかいじめもない、教える方も教わる方も素晴らしい環境の学園と聞いてますけれど...」
「そうですか....それでしたら、いいんですけど....」
「...どういう意味でしょうか?」
「いえ、こんな田舎というか山奥にありますから、悪く言う人達が結構いるんですよ。 吉田先生の言う通り、みんな学園生活をエンジョイしていますよ」
斎藤はニタッと薄気味悪い笑みを浮かべた。

智子は斎藤の薄ら笑いを見てゾッとした。
気分を変えるために周りを見回すと、どんどん緑が深くなり、日は届かなくなり天気の良い朝の10時とは思えないぐらい暗かった。
突然目の前に、樹の全く無い広いスペースが飛び込んで来た。
そこには大型のバスや車が沢山止まっていた。
「それじゃあ、降りてください。 ここからは歩きですから」
「歩き?」
「ここから学園までは車で入れないんですよ。 ここからは歩きです。 荷物持ちますから、先生は転ばない様に気
を付けて後について来てください」
「いえ、自分の荷物ぐらい自分で持ちますから...」
「樹海の中は光りが届かなくて地面が濡れているところがありますから、遠慮なんかしないで下さい。 これから一緒に仕事をする仲なんですから」
一緒に仕事をする仲という言葉に何かひっかかるものを智子は本能的に感じたが、今はとにかく道を覚えることだけに集中しようと思った。

どれぐらい歩いただろうか、すでに智子には道がわからなくなっていた。
(なんだか、道を覚えられない様にくねくね歩いているような気がする....教師も外部に出られない様になっているのかしら....)

大きな樹を過ぎると目の前に要塞の城壁のような壁が智子達の前に立ちはだかっていた。
「お疲れ様でした、やっと着きました」
「この壁は...」
「ああ...こんな場所に立っているんで、野犬とか野ざるとかが入ってこないようにしてあるんです。 ご両親にお
預かりしている大事な生徒達ですから」
(そういう風に言えばいいと思ってるでしょ....そんなの嘘に決まってるじゃない...どう見たって要塞か監獄の壁よ....)
「入り口はこっちです」
斎藤についていくと大きな門が二人を出迎えた。
入り口のインターフォンを押すと、大きな音を立ててドアがゆっくりと開いていった。
門をくぐると目の前に大きな広場があり、噴水が刻一刻と変わる芸術を披露していた。
奥の方には翼棟のある大きな校舎があり、まるで今にも飛び立とうとしている大鷲のようであった。
「体育館や校庭、生徒達の宿舎、教師の部屋等は校舎の向こう側にあります。ここからはちょうど見えないですけど」
「凄い広い敷地ですね」
「田舎ですから、安いみたいですよ」
「それにしても野球場何個分っていう感じですけど....」
「外には出れないですし、出たところで何もないですから、この中で全てが賄えるようになってるんですよ。 ですからこのぐらいの面積が必要になってしまうんでしょうね」
斎藤はもっともらしい事を言うと、どんどん先を急いだ。
校舎の真ん中の最上階の6階にある校長室に智子は連れて行かれた。

コン、コン
「失礼します。 新任の吉田先生をお連れしました」
「どうぞ!」
「失礼します」
智子は神妙な面持ちで部屋に入っていった。

校長室は特殊捜査局の金本の部屋と同じか、それ以上の広さだった。
奥には大きな木の机が置かれており、その手前に応接セットが置かれていた。
机などの配置は金本の部屋とあまり変わらなかったが、一桁も二桁も高価そうに、見えた。
足首まで潜ってしまうのでは、と思えるぐらいフカフカのカーペットに脚を踏み出すと、お辞儀をして自己紹介をし
た。
「私、吉田智子と申します。 本日からお世話になります。 一生懸命頑張りますので、宜しくお願いいたします」
「まあ、そんな入り口のところで挨拶なんかしないで、ソファーにお掛けなさい」
「はい、ありがとうございます。 それでは、失礼します」
智子がソファーの所に歩いてくると、背後で斎藤がドアを閉めて退室していった。
「私が当、官能学園の校長の森本です。 宜しく頼みますよ、吉田先生」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
「吉田先生は体育の先生でしたよね」
「はい、そうです」
「官能学園ではスポーツ活動を重要視しています。 先生には授業以外でもクラブ活動で色々とお手伝いして頂きますから頼みますよ」
「はい、私で出来る事でしたら!」
「あなただったら大丈夫です。 期待してますから」
年齢は50歳後半だろうか。
頭はかなり薄いのだが血色は良く、鼻の下に蓄えた立派なヒゲが印象的だった。
「もうすぐ教頭先生がいらっしゃると思いますから、少し楽にして待っていたください」
校長と智子は当たり障りのないような話をしていたが、ドアをノックする音が聞こえたのでその場で会話が途切れた。

「どうぞ」
「失礼します」
校長のように殆ど完全に近いハゲではないがかなり額が交代しており、赤ら顔と脂ぎった肌、ギョロッとした目が智子に嫌悪感を感じさせた。
「教頭の勝田です。 よろしくお願いしますよ、吉田先生」
「始めまして、吉田智子と申します」
立ち上がってお辞儀をした智子をジッと見つめていた勝田はソファーに腰掛けて、森本と目配せをした。
「思ったより結構小さいんですね、吉田先生」
「え、ええ....はい...」
「失礼、悪い意味に取らないでくださいね。 小さくて可愛いって言う意味ですから」
昔から背の低い事を馬鹿にされてきた智子としては、何とも無いことなのだが、勝田に言われる事だけは許せない感じがした。
「ところで、お電話で話したと思いますが、当学園では先生方とは1年単位での契約となっています。 ですから契約した段階で1年間は官能学園から出る事が出来ません、よろしいですね!」
「あの、絶対に出られないんですか?」
「絶対ということはありませんが、官能学園から外に出るのは色々な手続きが必要なので....」
「....わかりました、それでしたら結構です。 1年間よろしくおねがいします」
(どうせ1年なんかいるわけじゃないんだし、出ていく時だってわざわざ断っていくことなんてしないんだから関係ないわね)

「それでは、吉田先生には自分の部屋に荷物を置いて頂いて、学園内の説明を教頭先生にしてもらいましょう」
「はい、わかりました。 それでは、校長先生、よろしくお願いします」
「はい、頑張ってくださいね」
智子と勝田は校長室を後にした。