教官室に戻るとさゆりが戻っていた。
「吉田先生、教頭先生がお呼びです。 教頭室に来るようにおっしゃってました」
「は、はい....わかりました。 何の用事か、言ってました?」
「特に何もおっしゃっていませんでしたけど、たぶんクラス担任と部活動の顧問の話だと思います:
「私、担任になるクラスを決めました....というか、無理矢理クラス担任にならされたんですけど....」
「それって、もしかしたら2年1組ですか?」
「ええ、さっきの授業の時に....」
さゆりの顔色が曇っていく。
「先生、あのクラスは一番たちが悪いクラスなんです。 それに学園内で一番お仕置きを受けている生徒と女子生徒を守ろうとしている男子生徒がいるし....先生にとばっちりが来ることは間違いないですよ」
(やっぱり....まゆみちゃんの言ってたことは本当みたいね...)
「でも....もう生徒達の前で言ってしまったんです....担任になるって....」
「それじゃあ仕方ないですね...十分注意してくださいね、吉田先生」
「はい、ありがとうございます....それじゃあ私...」
「あっ、そうでしたね。 ごめんなさい、引き留めちゃって...」
智子は教官室を出ると校庭を突っ切って校舎を目指した。
たった数日のうちに何度この部屋に来たのだろうか、智子は変態教頭の部屋の前でため息をついた。
コン、コン 
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開けると、そこには教頭と齋藤がソファーに腰をかけていた」
「忙しいところすまないですね...まあ、腰をかけてください」
教頭と齋藤は向かい合って座っていたので、智子は仕方なく齋藤から出来るだけはなれて隣に腰をかけた。
「どうですか、授業の方は?」
「え、ええ....校則がよくわからないので困っています....」
「まあ、あと数日すれば覚えますよ」
(それって、身をもってっていう意味でしょ、このスケベ男!)
「先生をお呼びしたのは、クラスの担任と部活動の顧問のことなんです」
「その件なんですが、もうすでに2年1組のクラス担任になってしまったんです。
 それから部活の方も保健体育研究クラブの顧問になってまして....」
「ほう、2年1組ですか...それは、それは...」
齋藤がニタニタしながら、智子の方を振り向いた。
「2年1組なら問題ないでしょう。 それではそのように登録しておきますから....それから部活動の方ですが、教員の数が足らないので複数の顧問になっていただく必要があるんです。ですから保健体育研究クラブ以外の部の顧問にもなってもらいます」
「は、はぁ....」
「それで、明日なんですが一日かけて部活巡りをして欲しいんです」
「部活巡りですか?」
智子はキョトンとした顔で訪ねた。
「吉田先生を部活の顧問に希望している部活が結構ありまして、明日は吉田先生にその部を回ってもらってテストを受けてもらいたいんです」
「テストですか?」
「そうです。 顧問の教師は生徒が決定する事になっていますのでテストをパスしないと顧問にはなれませんから、頑張ってくださいね。 でも、パスしたとしても生徒達が必要ないと言ってくるかもしれません」
「全部駄目だった場合はやらなくてもいいんですか?」
「一つも決まらなかった場合には罰を受けて頂きます。 もっと頑張って欲しいという意味を込めてですけども」
「罰ですか? 生徒達が選ぶのに...」
「まあ吉田先生だったら大丈夫だと思いますけど...」
「何をテストするのかわからないですけど、一つぐらいなら.....」
「そうですよ、活発で頭のいい吉田先生だったら問題ありませんよ。沢山あるうちの1つに合格すればいいんですから」
「でもテストの内容によると思いますけど...」
「たいしたテストじゃないから大丈夫だと思いますよ。ただ、この学園は生徒に対して教師が見本を見せなければなりませんから、運動部にしろ文化部にしろ生徒をある程度指導できないと駄目です。それを生徒達が確認するだけです。ただし生徒達のテストに合格しない場合、生徒達の期待を裏切る事になりますから生徒達から罰ゲームが言い渡されます」
(また、罰! 信じられない....)
「それでは、一つでも合格しなかったらそれら全部の部から罰があって、一つも合格しなかったという事でまたも罰をうけなければならないんですか?」
「そういう事になりますかな....」
「.......わかりました」
(全部合格すればいいんでしょ....やってやるわよ)
「そうですよ、大丈夫ですよ。 吉田先生」
「ところでどの部に行けばいいのですか?」
「現在顧問を募集している部は6つです。 ただ、部の存続が危うい程人数の少ない部がありますから、そこを除外します」
「6つですか!」
「今言ったとおり、全部ではありません。 そのうちの半分の3つを回っていただきます。ここに地図が書いてありますから番号の順番に行ってください」
「ということは....最初はバレー部ですね。 き、教頭先生、この拷問研究部というのは...?」
「確か、東洋、西洋の拷問について研究している部です」
(拷問研究部の顧問になるテスト? 合格しなかったら罰ゲーム...脱出不可能な監獄...いえ、姦獄ね...)
「こんな部がある学校なんて始めて聞きました」
「他にはコスプレ研究部なんていうのもあるんですよ。部に関していえば大学並みかもしれませんね」
智子は、一刻も早くこの場所から逃げ出したかった。
「ああ、そうそう....明日の吉田先生の授業は無しになりましたから、一日かけてテストを受けて下さい。 1つの部につき2時限が与えられていますから、テストと罰ゲームの両方で十分でしょう」
まるで、全部の部のテストが不合格になるような斉藤の言い草だった。
「ちょっと待って下さい。 顧問を募集している部の生徒は授業を受けないんですか?」
「明日は特別な日ですから、いいんです。 吉田先生は気にしないでくださ
い....あ! でも朝と授業終了時のホームルームは必ず出て下さい、いいですね」
「はい...わかりました」
「それからクラス委員の木島さんに、今すぐ私の所に来るように言って下さい。
もう授業が始まってますが、私の指示ですから吉田先生は気になさらないで下さい」
「木島さんですね、わかりました。 それでは失礼します」
智子が部屋から出てドアを閉め終わるか終わらないかという時に部屋の中から教頭と斉藤の不気味な薄笑いがドアの隙間から流れてきた。
その声を聞いて智子の背中からうなじにかけての産毛が総毛立った。
(早く....早く逃げ出さなければ.....)

教官室に戻る前に智子は教頭に頼まれた用事を済ますために2年1組に立ち寄った。
もう授業が始まっていたのだが、教卓側のドアをノックしてドアを小さく開けた。
「なんですか、吉田先生? もう授業中ですよ」
授業をしていたのは数学の西川だった。
「授業中申し訳ありません。 クラス委員の木島さんに至急教頭室に行くように言ってもらえませんか?」
「木島に....教頭室ですか?」
「はい、教頭先生が今すぐ来るようにと....」
「そうですか.....」
その時に西川はピンときたようで、アバタででこぼこになった顔を嬉しそうに歪ませて振り返った。
「おい、木島!」
「はい!」
「今すぐ教頭室に行って来い! 教頭先生がお呼びだ」
「....はい! わかりました」
「それじゃあ宜しくお願いします。 授業を邪魔して申し訳ありませんでした」
「ええ、全然構いませんから。 それじゃあ、もういいですね」
「はい、ありがとうございます」
智子がドアを閉めて階段の方に向かって歩いていくと2年1組のドアから木島が出てきた。
振り返って見ていると、前のドアから西川が出てきて木島に何事か話しかけている。
西川と木島が自分の方を見ながら嬉しそうな顔をしているのが妙に気になって仕方がなかった。