「一番  今川 孝彦 372
  二番  新井 由理 368
  三番  ・・・・  ・・・」

「ま、また……負けた……」
 とある有名塾の廊下の掲示板。はりだされた実力テストの順位を見て、由理はがっくりと肩を落としてつぶやいていた。呆然と口を開けて張り紙を見つめる彼女の姿に、声をかけようとした友人たちもさっと引いてしまう。

(あんなに勉強したのに。これで三回連続で、こいつに私が負けてるじゃない!)

「ほら、由理、もう講義がはじまっちゃうわよ。さあ、早く行かなくちゃ」
 頬をぷぅと膨らませて、自分の一つ上に鎮座する名前をにらみつける由理。放っておけばずっとこの場に立ち尽くしてるんじゃないかという彼女の様子に、一人がたまらず声をかける。

「あ、清香。う、うんっ、わかってるけど……」
 声をかけられた由理は振り返って、目の前の友人に視線を向ける。しかし、由理の様子は明らかに後ろの掲示板を気にしているのが見え見えだ。
「それにしても、今川くんって頭いいのね……最近、ずっと一番を取ってるんじゃないの……って、あ、ごめん」
 由理から後ろの掲示板に視線を移した清香が、そう口にしてしまう。彼女のそんな言葉に、由理は敏感に反応する。普段にこにこ笑っているときには垂れ目がちの目なのに、今はちょっとつり上げたような厳しい視線に、清香は慌てて口をつぐむ。

「……どうせ、私が負け続けてるってことでしょ……でも、そういえば清香って、この今川って奴のこと知ってるの?」
「そんな言い方して……ほら私、北小だから、今川くんと同じ小学校なの。由理は確か……」
「そ、西小。それに、塾に来てる日も違うみたいだから会ったことないの」
「ふーん……あ、由理ったら気にしてるでしょ?」
 ちょっといたづらっぽく問いかける清香。その言葉に、由理はぷるぷると首を振って答える。
「そ、そんなことないよ! まったく、すぐそんなこと言うんだから。ほらほら、もう急がなくっちゃ」
 慌てて教室に向かう由理の後ろ姿を見つめながら、清香は、わかってないなあというふうに首を振っていた。