「あのう、これ一つお願いします・・・」
「えっ、あっ、すいません・・・」
 
 天気のいい土曜日、退屈な午後の一刻。うとうとしてたところに突然声をかけられた葉琉奈は、欠伸をかみころしながら、慌てて受け答えた。
「はい、縁結びのお守りですね。五百円になります・・・って、あれ、岡村くんじゃない?」
「も、もしかして、丞静院さん。どうしたの、巫女さんの格好なんかして・・・」
 
 声をかけてきた相手が同じ中学の同級生である岡村隆史なのに気づき、葉琉奈はちょっとびっくりしてしまった。
 でも、それは相手の男の子も同じらしい。まさかこんなところで、といった感じの驚いた表情がおかしくて、葉琉奈はくすっと吹き出してしまう。
 
「ふふふ、驚いたの。ここは、おじいちゃんの神社なのよ。それで、二、三日ほど留守する間の番を頼まれてたの。まあ、岡村くんが来るとは思わなかったけどね。」
「で、でも、まさか、丞静院さんがこんなところにいるなんて・・・あ、でも、名字とか確かにそれっぽいなって気もするか・・・って、何を言っているだろ・・・」
「しどろもどろの受け答えしちゃって、一体どうしたの? そうか、このお守りね。」 
 葉琉奈はそう言って、ちょっといたづらっぽく笑いかけた。
 
 その言葉に、隆史はあわてて言い訳を始める。
「あ、そ、それは・・・そう、そうだ! 姉貴に頼まれちゃって・・・」
「何がそうだ、よ。そんなのまるっきり嘘ってわかるわよ・・・ま、せっかく来てくれたんだし、奥でお茶でも飲んでいかない?」
「でも、ここはどうするの?」
「大丈夫、ちょっとの時間なら人も来ないだろうし。それより、ささ、はやくはやく!」

「でも、岡村くんが縁結びのお守りなんてねえ・・・」
 神社の建物のちょっと奥、ちょうど巫女さんの休憩部屋みたいなところに通された岡村くんは少し緊張してるみたい。そんな感想を抱きながら、葉琉奈は入れたばかりの緑茶をすすめて、早速切り出した。
 
「悪いことじゃ全然無いけどね。でも、ちょっと意外だったかな。だって、すっごくもてるじゃない、岡村くんって。」
 生徒会副会長にしてバスケ部の部長、成績も優秀でルックスもまあまあ。同級生の女子のなかでも人気の高い岡村くんが、わざわざ女の子の事で神頼みなんてちょっと信じられなかったのだ。
 
「だから、それは・・・そうだよ、俺のだよ。でも、そんなにもてるわけじゃないさ。」
 葉琉奈の言葉に、隆史は観念したようにぷいと横を向いてしまう。いつもとは感じの違うそんな隆史の態度に、葉琉奈はかすかに笑みをこぼす。
「ふーん、そんなことはないと思うけど。だけど、誰なのかな、岡村くんにそんなふうに想われてる人って。」
「・・・いいだろ、誰だって・・・それよりこのことは・・・」
「わかってるって。別に誰にも言ったりはしないわよ。」
 そう言ってにっこり笑う葉琉奈の姿に、隆史はひそかに溜息をついていた。