それから、卒業までの約半年、俺と風子の間は順調だった。ま、といっても、競馬学校で忙しい身だし、そんなにいつも会えるわけじゃないのは残念だけど。そして三月、卒業の季節……

「ここ、ここっ、おにいちゃん!」
 ぴょんぴょん飛び跳ねる風子の姿に、俺は少し吹き出しつつも手を振って答える。
「ごめん、ちょっと待たせちゃったかな?」
「ううん。それより、どうだったの?」
 風子の問いかけに、俺はぴっと誇らしげに親指を立てて、
「もち、合格合格」
 
 そう、今日は競馬学校の卒業の合格発表の日。これで、俺も晴れてプロの騎手ってわけだ。というわけで、風子とお祝いするための待ち合わせだったのだ。ま、もし落ちてたら、残念会という情けないことになってたけど。
「やったね! おめでとう、おにいちゃんっ」
 風子も、満面の笑みで、
「さ、それじゃあ、お祝い、ぱっといかなくちゃね!」
 
 ま、お祝いといっても未成年の二人。せいぜい、ちょっと洒落たレストランで食事するぐらい。それでも、ついつい話も弾み、ずいぶん夜もふけてくる。
 レストランを出た俺は、すっかり夜の闇に包まれたあたりを見回した。

「もう、遅くなっちゃったね、風子ちゃん。そろそろ……」
 帰ろうか、そんな僕の言葉を遮るように、風子がひしと俺の体にしがみついてくる。
 うるんだ瞳で俺を見つめる風子。そしてかすかに震える少女のピンク色の唇に、俺は思わず自分の唇を重ね合わせていた。

 一瞬、驚いた表情をする彼女、でもすぐに目をつぶって、積極的に唇を俺に預けてくる。
「風子ちゃん……」
 長いような、でも一瞬の口づけ。わずかにとまどった声をもらした俺の体を、ぎゅっと抱きしめながら、風子が恥ずかしそうに言葉を続ける。
「あのねっ、おにいちゃんにプレゼントがあるの……風子を……風子をおにいちゃんにあげる……」
 消え入りそうな少女の声。恥ずかしさに真っ赤に染まった顔を伏せる風子。
 そんな彼女が愛おしくてたまらない、でも、

「ありがと……でも、風子ちゃん、まだ小さいしそんなことできないよ……」
「ううんっ、風子はおにいちゃんにしてほしいの……それとも、風子のこと嫌い?」
 今にも泣き出しそうな少女の瞳。俺の胸板には、彼女の薄い胸が自然と押しつけられてくる。自分の腕の中に感じる風子のほっそりした、でも柔らかな肢体に、俺は自分の理性が次第に消え失せていくのを感じていた。