「あんた、あっち行ってなさいよ」
耳の側でささやくとそいつはすぐに私と彼の側からすっと離れて、恐怖の表情
で去っていった。
加代子の彼氏である雅之君
ちょっと静かな男の子だけど、ちょっと好みだった。
「ひさしぶり…、雅之くん」
なんとなく…
初めはそう思っていた。
自分はいじめっこで女子の間では結構みんなを従えて、何でもやってきたからも
あったのだろう。
男はあんまり近寄らなかった。
そんなとき加代子が彼氏を連れて町を歩いているところに会った。
加代子は私のいつもの遊び相手。
いつでもなんでも言うことを聞いてくれる、いわゆる、いじめられっこ、加代子
はそういう子だった。
「あ、加代子ちゃんはどうしたの?」
雅之がさっといなくなった加代子に目を向ける。
私はとぼける。
「知らないわよ。なーんかね、用事があるからあとよろしくっていっちゃったん
だから…、あんたそれでも彼氏なの?」
「加代子ちゃんがそう思ってくれてるならね」
なによ…
こいつら結構仲いいと思ってたのに、雅之の方にはそんなに自覚ないの?
そんなきっかけからちょっと興味を持ってしまった。
その時、八月が始まる…

私と雅之はそれから何度か会って…
ちょっと話をしたりした。
「24日にうちに来なかったら、後で承知しないんだからね」
恋人になったなって自覚したのは夏休みが終わる頃。
「そんな…、湧ちゃんなんで?」
はじめは加代子のことばっかり気にしていた雅之は、加代子から連絡がないって
心配していた。
私が助言してやって…
加代子にはしっかりと釘を差しておいた。
24日に、映画のロードショーがあるからそれに二人で行ってきて、関係改善を
試みてみれば? ってね。
「なんだ、湧ちゃんは結構女らしいところもあるんじゃないか…」
夏も終わる頃には…
「ばかいってんじゃないわよ?」
なんとなく、自然に歩調が合うようになっていた。

始業式…
学校に登校すると、なんとなく違和感を感じた。
「ちょっと、由香!」
誰一人私に話しかけようという人がいない。
「湧ちゃん、なに?」
別に用事があるわけじゃない。そう聞き返されて困るのは私だった。
「あ…、私、ちょっと先生に呼ばれてるんだ…、ごめんね」
私の側まで来た途端にあわてた様子の由香は、なんとか無理矢理理屈を付けたよ
うにささっと教室のドアから去っていった。
なんか気にくわないわね…
結局、私は、そのまま講堂へと一人で行くことになった。
いつもならいるはずのメンバーが教室にだれ一人いないのはさすがに不思議だっ
たが、たまにはこういうこともあるだろうと…
無性に腹が立つ。
「まったく…、どうしようもない校長ね」
そう思いながら、なんとなくつぶやいてみると…
横の視線が私をちらっと見る。
なによ…
人のこと見ていったいなんの話を…
いつもなら、私の前か後ろには仲間がいて、ちょっと話を聞いてくれるような、
そんなのがいるんだけど。
講堂での長い、長い、長い話を聞きくたびれて教室に戻った。
「よーし、今日からまたしっかり勉強するんだぞ」
先生が帰ってくる。
入ってきた途端に勉強の話か…
周りを見回すと、仲間の連中はしっかり登校してきてるようだった。
二十人ちょっとの少人数制だからすぐ分かる。
いつもなら普通に先生がいようと話が出来る私なのに、今日ばかりはそうはいか
なかった。
回りに話しかけようとすると、そいつが、横目で私をちらっと見て…
すぐに目をそらす。
「配布物が多いし、回収するのもあるから… 君と君と、手伝って」
私は指名されない。
先生もかなり心得ているらしく、おとなしいしっかりした子を選んであまり私の
ようなのには、雑用をさせない。
授業中はしっかり指されるから注意が必要だけど。
プリント配り係が私の横に来て…
!?
私の所に配らずに去っていった。
「ちょっとあんた、ふざけるんじゃな…」
立ち上がって、そいつに大声で怒鳴ってやった。
「松原、落ちたプリントくらい自分で拾ったらどうだ?」
後ろから先生の声がする。
配ったのは小百合って子…、私は小百合がやったのに驚いた。一瞬、プリントの
落ちた位置を確認する。
プリントは、私の机の横に落ちている。
もう一度小百合の方を見たら、小百合の目が、私にものを言っていた。
わざと落とした。
んだよって…
あいつまで、どうして。
私とは、夏休み前まで随分仲良くしてたし、加代子相手に一緒にちょっかいだし
て遊んだりしていたのだから。
落ちたプリントを先生の目を気にしながら拾った。
クラス中が私を注目してる。
なんか、いつもなら誰か一人くらいやじをとばしそうなものなのに…
今日に限ってだれも何一ついわなかった。
「よし、次は通知票を回収するから、机の上に出しておくように」
雅之がいないからいいものの。
こんなところをあいつに見られたら会わせる顔がない。
私は、回収係に通知票をぽいと渡す。
気にくわないわね…
あらゆる配布物をくばり、回収し終わって十時くらい。
先生が、終礼を始める。
別になにを話すでもないのだが、始業式の日でもあるのだから不思議だ。
内心終わってほっとした。
これほど学校にいずらさを感じたことはなかった。
いや、帰り道、とりあえず小百合の奴をとっつかまえて話をきいてやらないこと
には腹の虫が治まらない。
「小百合!」
終礼が終わってすっといなくなる中、小百合をなんとか引き留めた。
「な…、なによ、湧ちゃん…」
変だ…
さっきなんで落としたか、それを聞こうと思ったところで…
後ろから肩を叩かれた。
「だれだっ!」
私は驚いて振り向く。
…と、そこには先生がなんだ、と不思議な顔で立っている。
「せ、先生?」
「通知票でてなかっただろ? ちゃんともってくるんだぞ」
そんな、私はもってきてちゃんと提出…
「出しましたよ!」
そう言って、後ろを振り返って小百合を問いつめようと思ったら、もうすでに、
小百合はそこにはいなかった。
私のことを避けてる?
そうはっきりと気付いたのがその時だった。
「出てないんだ。この前もだっただろ? ちゃんと集まらないと困るんだよ」
「だから、出しましたってば」
しかたなく先生の方を向いて言い返す。
「本当か? しょうがないなぁ…、もう一度調べてみるけど、松原ももう一回家
で確認してみてくれないかな」
「………」
私は出した。絶対に…
回収係の奴に手渡して、そいつが先生に提出したはず。
もしかして…!?
「頼むぞ、こればっかりは困るんだ…」
誰だったか覚えてない。
ないけど、そいつがもし、私のだけ抜き取って提出したとしたら…
そんな予感がした。
官能小説です。