女子トイレに入るなり、それまでやさしかった慶子、律子、和恵の態度が急変した。
「あ~あ、汚ったねぇなあ・・・」
「本当だよ、まったく・・・なんで私たちがお前のションベンをこの手で、
手だよ手!! 分かってんのかよ~!!」
「臭っ~さ~い!! 早く洗おうよ!!」
トイレない洗面所で3人は手を洗い出した。
「おい、お前がもっと我慢してれば私たちがこんな目にあわなくても良かったんだよ」
律子は、その場にしゃがみ込んで泣き続ける少女に向かって言った。
「あ~臭い、臭い、臭いから何か買ってもらおうか? 慶子?」
「そうねぇ・・・後始末もしてあげたんだからぁ・・・」
3人は一度洗った手を、いや腕をもう一度洗い出した。
「香水なんてどう?」
「それいいよ!! 律子!! 慶子もそう思わない?」
「ん~、香水かぁ・・・私、○○のやつね!!」
「え~っ、それってすっごく高いやつよ、慶子」
「私も慶子と同じでいいや」
「和恵まで・・・」
ハンカチで腕を拭きながら和恵が少女のそばに来た。
和恵は、泣きじゃくる少女の方をポンポンと叩きながらこう言った。
「今日のお詫びに○○の香水を3本、ちゃんと持って来るんだよ」
「うっ、うっ、うっ・・・」
「もし、持って来なかったら・・・」
慶子は、律子の方を向いてニヤリと笑った。
「うんこも一緒におもらしかぁ~?」
律子は、大きな声で叫んだ。
「うっ、うわぁぁぁぁぁん!!」
少女の泣き声を残し、3人は笑いながら女子トイレを後にした。


クンクン、クンクン。
手や腕の匂いを嗅ぎながら慶子、律子、和恵の3人は校舎を後にし駅へと
向かっていた。
「まだ、匂うかな、慶子?」
クンクン、クンクン。
「大丈夫だと思うけど・・・」
クンクン、クンクン。
「しかし、今日はちょっと失敗したよね、律子もそう思わない?」
「でもさあ、おかげで○○の香水だよ」
慶子は、今回の報酬を自慢気に言った。
「それって、私が言い出したから・・・」
「でも、止めを刺したのは、わ・た・し・・・」
慶子は、自慢気に言った。
駅の改札口で慶子は急に立ち止まり
「ごめん、ちょっと用があるから今日は、ここでサヨナラするね」
慶子は、そう言い残すと駆け足でその場を去った。
「あ~あ、行っちゃったよ」
「何の用かな~?」
律子と和恵はお互いの顔を見ると、ニッコリ微笑んだ。
「いつもと雰囲気が違うから・・・ひょっとして・・・」
「ひょっとするかも・・・和恵殿・・・」
「やはり、ここは一つ・・・のぉ、律子屋・・・」
「後をつけるしか、ありませんな・・・和恵殿・・・」
「いやいや、お主も悪よのぉ・・・律子屋・・・」
「なにをおっしゃる、お代官さまに比べれば・・・」
「わっはっはっは!!」
二人は、時代劇ドラマのような会話を終わらせるとすぐさま慶子の後を追った。
「はっ、はっ、はっ、はっ、どこに行ったかなぁ」
走りながら律子は、和恵に尋ねた。
和恵は、腕時計を見ながらこう答えた。
「もうすぐ3時かぁ・・・となると駅から4、5分の距離ね!!」
「となると、あそこの噴水なんか怪しいんじゃない?」
「え~っ!! あそこじゃ目立っちゃうよ?」
「そこが、ポイントよ!!」
「目立つ場所ほど、目立たないってか、よし行ってみよう!!」
二人は、駅の近くの噴水のある公園へと向かった。
そこは、この辺では待ち合わせのメッカ的な場所である。
噴水を取り囲むようにあちらこちらで人を待つ人々が立っている。
二人は、遠目から慶子の姿を探した。
「いた!!」
先に見つけたのは和恵だった。
「えっ、どこどこ?」
「ほら、右側のベンチに座っている、あの子慶子じゃない?」
「本当だ、慶子だ!!」
その慶子は、後をつけられたとは全く思ってもいなかった。
しきりに腕時計を気にして、あたりをキョロキョロを見回している。
「あれって、やっぱ、デートだよ、律子・・・」
「そんな感じね、けど慶子たら水臭いわよねぇ、私たちに秘密にするなんて」
「本当、本当・・・でもどんな人がくるんだろう・・・」
慶子の動きが突然止まり、立ち上がって手を振り出した。
「き、来たわよ、律子・・・」
「どれどれ、どんな男かなぁ・・・」
慶子その男のそばへと駆け寄り、腕に抱きついた。
幸せそうに微笑みながら二人は、その様子を隠れて見ていた律子と和恵の方に
向かって歩きだした。
「あの人って・・・律子・・・」
和恵は、驚いた顔で律子の方を見た。
「哲夫・・・」
律子は、力のない声で呟いた。
「だよね・・・」
和恵は、もう一度並んで歩く二人を見た。


翌日の朝、いつものように慶子は教室に入った。
「おはよう!!」
しかし、なぜか教室内には重苦しい雰囲気が漂っている。
慶子は、そんな雰囲気をあまり気にもとめず自分の席へとむかった。
「おはよう、律子、和恵!!」
声をかけられた二人は、慶子から視線をそらし何かヒソヒソと二人で話し合っている。
慶子は、少しムッとした。
それでももう一度声をかけ直してみた。
「なに、二人だけで話ししてんのよぉ~」
律子と和恵はキリッと慶子を睨み付けると、席から立ち上がりその場から離れて
行った。
「なによ、朝から・・・ムカつくわね~!!」
慶子は、仕方無しに自分の席へ腰を下ろした。
チクッ!!
「痛い!!」
慶子は、飛び上がるように立ち上がった。
座席を見ると、一つの画鋲がセロハン・テープでしっかりと固定されていた。
「だ、誰よ!! 誰がこんなことしたのよ!!」
慶子は、怒りを露わにして教室中の生徒に向かって叫んだ。
教室内にいた生徒たちは誰一人も慶子と目をあわさなかった。
「誰がしたかって聞いてんでしょ!!」
・・・・・・答えは返ってこなかった。
キーン、コーン・・・カーン、コーン・・・
今日最初の授業が始まる合図だ。
先ほど教室を出ていった律子と和恵は、先生と一緒に話しをしながら現れた。
「ねぇねぇ、律子・・・」
かけた声が小さかったのか、律子は、何も返事をしなかった。
今度は、すぐさま和恵に声をかけた。
「ねぇねぇ、和恵・・・」
和恵も律子と同様、何も答えてくれなかった。
慶子は、あきらめて授業を受け始めた。
・・・一体、誰がこんな事を・・・
教室内をキョロキョロと観察しながら考えた。
・・・まさか、昨日の仕返し?・・・
視線を自分の前の席にやったが、誰も座っていない。
昨日の今日である欠席していて当たり前だ。
慶子は、ハッと思いついた。
・・・見られた?・・・
律子と和恵の方を見た。
・・・でも、確かにあの子達は改札を抜けて・・・
・・・それにあの二人が私に・・・
原因が全く思い付かない。
キーン、コーン・・・カーン、コーン・・・
慶子は、一時間の授業中に色んな事を考えたが全く分からない。
なぜ突然、自分がこんな目に合っているのかが。
休み時間に入ってすぐに律子と和恵に声をかけた。
しかし、二人は先ほどと同じように慶子を無視して教室から出ていった。
・・・シカトされているわ・・・
次の休み時間も、昼休みもすべて慶子は無視され続けた。
仲の良かった二人だけでなく、クラス全員から。