長い一日の授業が終わり、慶子が諦めて一人で帰ろうとしたときだった。
「慶子、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
先に声をかけたのは和恵だった。
「旧校舎の視聴覚教室で待っているから」
律子が背中越しに慶子に向かって言った。
・・・やっぱり、昨日、見られていたんだ・・・

ガラガラガラ。
重い木製の引き戸を開けて慶子は待ち合わせの教室内に入った。
旧校舎の視聴覚教室。
来年、取り壊し予定で現在は立ち入り禁止となっている。
パッと部屋の明かりが付いた。
「律子・・・和恵・・・」
二人は一番奥のドアの側に立っていた。
「ドアを締めてこっちにきな」
和恵が低い声で慶子に言った。
「そこに座って」
律子が椅子を引いた。
慶子は、従いたくなかった。
ここで二人に従ってしまったら、いままで一番優位な立場の自分が
なくなってしまう。
とにかく昨日の事は徹底的にとぼけてしまおうと思った。
「なんで、私が座らなくっちゃいけないのよ」
慶子は、精一杯の虚勢を張った声で答えた。
「昨日の事がばれちゃったんだよ・・・」
「昨日の事? 昨日の事って何、和恵?」
「おもらしの件だよ!!」
律子が和恵の代わりにに答えた。
・・・よかった、哲夫の事じゃなくって・・・
「慶子のせいだからね、慶子のせいで退学処分になっちゃうんだから」
「退学処分? いったい何の事なの律子?」
「慶子が○○の香水を持って来いって言ったから・・・」
慶子は、ニヤリと心の中で笑った。
どこでどうなったかは知らないが、この3人が退学処分にかけられそうに
なっているみたいだ。
仮にそうなっても自分の親に頼めば、すぐにでも取り消すことができる。
そんな事ができるのは、自分しかいない。
ここでは、私が一番、有利な立場にいると思った。
「私は言っていないわよ、そんなこと!!」
「持って来いって言ったのは、和恵!! あなたじゃない!!」
慶子は和恵を睨み付けた。
「でも、慶子が、○○の香水って・・・」
和恵の声に迫力がなくなっている。
もう少しで、和恵は私の味方になる。
そう、慶子は思った。
「私は、商品名をただ言っただけよ!!」
「和恵みたいに、持って来いって言っていないわ!!」
・・・まずは一名、脱落ね・・・
「それに、香水って言い出したのは、あなた、律子じゃない!!」
慶子と和恵、同時に律子を睨んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ、慶子・・・」
「あなたが香水って言い出さなければ、こんな事にはならなかったんじゃないの?」
二人ににらまれた律子に、少し動揺の色が見え始めた。
・・・律子も、もう少しだわ・・・
慶子は、少し間をおいてから続けてしゃべり出した。
「そうねぇ~、私の両親に頼めばねぇ・・・」
「頼めばなんなのよ・・・」
律子が、弱々しい声で聞き返した。
慶子は、奇麗に手入れしている自分の爪を眺めている。
「退学処分の一つや二つ・・・」
ちらりと、和恵の方を見た。
・・・助けて下さいって顔をしているわね・・・
「なんとかなるんだけどなぁ~!!」
律子と和恵の同時に固唾を飲む音が、慶子の耳に入った。
「今のまんまじゃ、私だけが学校に残ってしまって寂しいしなぁ~」
・・・ふ、ふ、ふ、勝ったわ、私の勝ちだわ・・・
「でもぉ~、助けてくださいってお願いされたらぁ~」
「お願いされたら?」
和恵が、慶子の機嫌を伺うように尋ねた。
「そうねぇ~、私たち親友だから助けてあげないってのもねぇ~」
慶子は、優位気に両手の爪を眺めていた。
律子と和恵は、オロオロとした目で考えているようだ。
・・・さっ、ここで決めようかしら・・・
「さぁ、どうすんのよ!! 私に頭を下げるの、下げないの!!」
慶子は、ビクつく二人を押え込むように怒鳴り倒した。
・・・決まったわ、私ってなんてスゴイのかしら・・・
慶子は、完全に自己満足に陶酔しきっていた。


プッ!
ウクッ!
フフッ!
「ハハハハハハ!!」
「ワッハッハッハ!!」
律子と和恵は、突然おなかを抱えて笑い出した。
慶子は、何が起こったのかがわからない。
・・・えっ? なんで笑っているのこの子たち・・・
「キャハハハハハ・・・」
「ヒィーヒヒヒヒヒ・・・」
彼女たちは涙を流して笑い転げている。
「ちょ、ちょっとあんたたち何がそんなにおかしいのよ!!」
「クックックックッ・・・」
「笑っている場合じゃないでしょ!!」
「はやく私に、お願いしなさいよ!!」
「ハハハハハハハ・・・」
「助けてくださいって言いなさいよ!!」
「うふふふふふ・・・」
ようやく笑いが止まり、律子は和恵に言った。
「わかったでしょ、和恵、慶子がどんな人間なのか」
「うん、よーくわかったわ」
慶子は、キョトンとしている。
・・・一体、この二人は何を考えているの?・・・
「キャア!!」
和恵が慶子の後ろから抱き付いた。
すかさず律子が、用意していた二つのオモチャ手錠を慶子の手首にかけた。
「なにすんのよ!! 冗談は止めてよ!! 律子っ!! 和恵っ!!」
そして、二人がかりで慶子を横に倒した。
律子は右手にかかっている手錠のもう一方を右の足首にかけた。
同時に和恵は、左側を処理していた。
「ちょっと、やめてよ!! やめてぇ~!!」
力のある和恵が、叫び倒している慶子を押え込んでいる。
その間に律子は、まず右側の手錠の鎖をロープで結んだ。
そのロープの反対側を、固定されている机の脚にしっかりと結んだ。
「もう、いいかげんにしてよ!! でないと後悔するよ!!」
いくら暴れてもがいても、和恵の力には勝てなかった。
「いくらでも叫びな!! 誰も来やしないけどね!!」
律子が、左側の手錠の鎖をロープで結びながら慶子に言った。
そう、ここは視聴覚教室、完全に防音されている。
さらに部屋の明かりすら外部に漏れたりはしないのだ。
律子は、残ったロープの端を強く反対側に引っ張った。
当然、両手両足をしっかりと固定されている慶子は、大きくその足を開く形になる。
「いやぁぁぁぁ!!」
律子は、しっかりと反対側の机の脚にロープを結び込んだ。
「これでよしと!!」
律子は、両手についた埃を払い落としている。
「和恵、もういいよ、お疲れ様!!」
「ふぅ~、思ってたより慶子って強かったわ・・・あー疲れた」
慶子を押え込んでいた和恵が立ち上がった。
「おうおう、パンツが丸見えだよ、慶子」
和恵が立ち上がると大きく足を開いた慶子が転がっている。
「早く離しなさいよ、和恵!!」
「まだ強がっているよこの子、どうする律子?」
律子は、ゴソゴソと鞄の中をあさっていた。
「いいじゃん、ちょっとほっとけばぁ~・・・あった、あった」
律子は、ソレを取り出すとすばやく制服のブレザーのポケットにしまい込んだ。