ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ。
慶子の両手両足は、動きを封じ込んでいる手錠を外そうと必死にもがいていた。
「痛い、痛いわよ!! 早く離しなさいよ!!」
オモチャの手錠だが、当然、鍵がなければ開けることはできない。
逆にもがけばもがくほど、締め付けてしまうのである。
「あんまり、暴れないほうがいいよ」
和恵が、そっと慶子に助言した。
「そうそう、手や足に跡が残っちゃうから」
律子は、慶子の頭の側に立ち他人事のように忠告した。
「ど、どうして私がこんな目に・・・」
「まだ、わかっていないみたいだね、律子」
和恵が、笑いながら律子の顔をみた。
「もうちょっと様子をみましょうか」
律子は、笑顔で答えた。
慶子は、諦めずにもがきながら二人に言った。
「わ、わかったわ、ちゃんと全員の退学処分を取り消してもらうから」
律子と和恵は、お互いの顔を見合わせ笑った。
「ふふふ・・・」
「やっぱり、わかってないよこの子」
和恵は、呆れ返ってしまった。
「じゃあ、教えてあげるからよく聞いているんだよ!!」
律子が、凄みを利かせた声で言った。
「あんた、私の哲夫に手を出したわよね?」
慶子は、ドキリとした。
・・・やっぱり、バレていたんだ・・・
「えっ!!」
それでも慶子は、とぼけた振りを続けた。
いや、ここはしらばっくれるしか方法がない。
「親友の彼氏に手を出すなんて、ちょっとひどいんじゃないの?」
和恵が、慶子に詰め寄ってきた。
・・・ここで、認めてしまっては全て終わってしまうわ・・・
「一体何の事よ!! どうして私が律子の彼氏を・・・証拠でもあるの?」
慶子は、とことん白を切るつもりで出た。


律子は、このままではラチがあかない、そう思った。
「さあ、和恵どうしようか、これから?」
「そうねぇ、私、疲れちゃったから家に帰ろうかなぁ」
さすが、和恵である。
律子の思計にすぐさま乗ってきた。
二人は、慶子を無視して鞄のほうに移動し始めた。
「ちょっと待ってよ、待って・・・」
慶子は、予想していなかった状況に展開してきたため戸惑い始めた。
律子は、鞄の中の荷物を整理しながら和恵に言った。
「私も家に帰ってお風呂にでもはいろうかなぁ」
二人は完全に慶子を無視している。
「ねぇ、聞いてるの、私の話、聞いてるの?」
慶子は、頭を持ち上げその苦しい姿勢で二人に言った。
しかし、二人ともまったく慶子の事は無視し続けている。
「そうしようか」
「うん、そうしよう!!」
二人は、鞄を肩からかけると慶子が入ってきた入り口の方へと向かった。
「待って、お願いまってよ!!」
慶子は、叫んだ。
しかし、その叫びは二人に届かない。
「ねえ、和恵、私たちここに何しに来たんだっけ?」
「わかんなぁいよ、律子~、そんな難しいこと聞かないでぇ~」
パチン。
教室の一番奥の明かりが消えた。
パチン。
また一つ明かりが消えて行く。
パチン。
最後の明かりは、慶子が縛られている場所だけしか残っていない。
「待って、おいていかないで!!」
慶子は、力の限り叫んだ。
「でも、ちゃんと戸締まりして帰らないとね!!」
「そうそう、先生に怒られるからぁ~」
それが二人の最後の会話だった。
パチン。
そして、最後の明かりも消えてしまった。
ガラガラガラ・・・
重たいドアが閉められて行く。
「お願い、置いていかないで!!」
慶子の悲痛な叫びが暗闇にこだました。
しばらく待っても、暗闇の向こうからの返事はなかった。
「ごめんなさい、律子、私が悪かったからごめんなさい!!」
慶子は、もう聞こえないかもしれない二人に向かってもう一度、大声で叫んでいた。


パチ、パチ、パチ。
教室中のすべての明かりが燈った。
慶子は、眩しさに一瞬目を細めた。
「本当にそう思っているの慶子?」
律子は、冷たい声で慶子に尋ねた。
慶子は、あたりを見回したが残念なことに彼女の位置から二人の姿を見ることは
できなかった。
「うっ、うっ、本当にごめんなさい律子・・・」
慶子は、とうとう泣き出してしまった。
二人は慶子の所まで戻り、彼女を見下しながら言った。
「でもねぇ、私たちを裏切った罰は受けてもらわないとねぇ~、和恵っ」
「そうだ、そうだ、親友を裏切ったんだからねぇ~」
いつもの明るいノリで離した。
「うっ、うっ、うっ、もう受けているわ・・・」
慶子は、悔しかった。
たとえ原因が自分自身でも悔しかった。
「あら、これが罰だって・・・」
「あはははは~!!」
二人は、慶子のぶさまな姿を指を差してわらった。


律子がマイクを持つしぐさをとった。
「罰はこれから始まるのよ・・・ジャカジャンジャンジャンジャンジャーン!!」」
「慶子の罰は何でショー!!」
パチ、パチ、パチ、パチ。
律子の横で和恵が一人で拍手をしている。
「司会は私、罰 与造と・・・」
「アシスタントは、場津尾 選部代でお送りします」
本当にノリの良い二人である。
「今日のチャレンジャーは、匿名希望の慶子さんで~す」
パチ、パチ、パチ、パチ。
今度は二人で拍手をした。
これから始まるゲームのために。
「え~!! 何をするの・・・」
慶子は、恐くなっていた。
一体これから何が始まるのかまったく見当がつかなかった。
「では問題です。慶子さんは親友の彼氏を奪い取りました。」
「ふむふむ、それはいけませんねぇ~」
問題を読み上げる和恵に律子が合いの手を入れる。
「そこで親友から罰を受けることになりました。」
「へぇ~、一体どんな罰を受けたんでしょうねぇ~」
「慶子さんの受けた罰とは、次の3つの中からお選びください。」
「三択問題ですよ、がんばっていきましょう!!」
「1番、そのまま一人で反省をした。」
「このまま放置されると死んでしまいそうですがねぇ~」
慶子は、ドキリとした。
彼女たちの言う通り、この教室に一人取り残されては確実に死んでしまう。
完全防音のこの部屋でいくら叫んでも、声は外に届かない。
立ち入り禁止となっている旧校舎には見回りの人間も来るはずもない。
来年の工事まであと半年以上もあるし・・・
「2番、今の姿を二人っきりで彼氏に見てもらった。」
「見せられた彼氏はもうビンビンですねぇ~」
慶子は、さらにドキリとした。
この状況下で男を連れて込まれたら・・・
きっとさんざん犯されたあげく、放置されてしまう・・・
まだ、処女である彼女にとってはもっとも悲惨な運命となるかもしれない。
「3番、3人で記念撮影をして仲直りをした。」
「なんと心温まる話なんでしょう・・・」
「チック・タック・チック・タック・・・」
「さあ、慶子さんが受けた罰は?」
律子は、マイクを持つまねをした腕を、慶子にむかって差し出した。
「いや、いや、いや!!」
慶子は、答えられなかった。
「何番ですか?」
「・・・」
律子は、執拗に慶子に答えを求めた。
「時間切れになると自動的に1番になってしまいます!! さあ何番?」
「さ・・・」
「聞こえません? 何番?」
「3番です!!」
「ピンポーン!!」
律子達は、慶子が3番を選ぶと確信していた。
「おめでとうございます!!」
パチ、パチ、パチ、パチ。
二人で慶子に向かって拍手をした。
慶子は、ホッした。
ようやく二人が許してくれたと思ったからだ。
「3番を選ばれた慶子さんはこれより記念撮影に入ります!!」
和恵は、ゲームの進行を続けた。
「え~、このままなの?」
「当たり前じゃない!!」
カメラを構えた律子が、慶子に向かって言った。
「いやよ、絶対嫌よ!!」
慶子は、断固として断った。
まさかこの姿を取られるとは思ってもみなかったのだ。
律子は、構えていたカメラを降ろし和恵に言った。
「自分で選んだのに嫌だって、じゃあ帰ろうか、和恵?」
「仕方ないね、帰ろう、律子!!」
二人はすぐに鞄を取り上げると、慶子に背を向けて歩き出した。
苦しい姿勢で二人を見ていた慶子は、焦った。
この二人なら本当に私を置き去りにして帰ってしまう。
何とかして引き止めて、手錠を外してもらわないと・・・
写真は躯さえ自由になれば何とかできる。
そう、考えた。
「ま、待って、待ってよ、写真とってもいいから外してよ!!」
慶子は、二人におねだりするような声で話し掛けた。
律子と和恵は、振り返った。
「最初っから素直にそう言えばいいのに・・・」
律子は、ポケットからカメラを取り出し構えた。
大きく足を広げて、下着を露わにしている慶子の姿を撮影するために。
「じゃあ、写すね、はいポーズ!!」
パシャ!!
律子の掛け声にあわせてストロボが発光した。
「写したんでしょ!! 早く外しなさいよ!!」
ガチャ、ガチャと手錠を揺さぶり慶子は、命令口調でふたりに言った。
「律子、こいつ、まだ偉そうに言ってるよ、どうする?」
「いいから、いいから、ほっときな!!」
律子は、うるさい慶子を無視して鞄から、手帳サイズのノートパソコンを
取り出した。
「へぇ、凄いもの持っているじゃん、どうしたのソレ?」
「親父に借りたの」
「使い方知ってんの?」
「ちゃんと、教えてもらってるよ」
さらにケーブルを2本、鞄から取り出した。
取り出したケーブルの1本を使って、カメラとノート・パソコンをつなぎ出した。
「これを、こうして・・・よし!!」
「うわー、凄いね、律子!!」
続いて律子は携帯電話も取り出し、それをもう1本のケーブルでパソコンに
つなぎだした。
「で、これを・・・ここに・・・そして・・・」
ノート・パソコンの電源を入れ、何やらややこしい操作を行っている。
横で見ていた和恵には、さっぱり訳が分からなかった。
「ねぇねぇ、一体何をしたの?」
「ん、後で教えてあげるからちょっと待ってね」
二人の後ろの方で、しつこくガチャ、ガチャと音が鳴っている。
「律子、ちゃんと謝ったし、写真も撮らせたんだから外してよコレ!!」
操作に忙しい律子に代わって、和恵が答えた。
「慶子、あんたまだわかっていないね?」
「えっ?」
「まだ、3人で記念撮影をしていないじゃない!!」
慶子は、気づいた。
この二人に、まんまとしてやられたと。
「だ、だましたわね!!」
「ん? だましてなんかいないわよ、ねぇ律子」
「そうよ、ちゃんと3人で記念撮影してないもんねぇ~」
律子は、キーボードをカタカタと慣れない手つきで操作している。
「それにねぇ、慶子、あんたちょっとムカツクんだよねぇ~」
「・・・」
慶子は、答えられなかった。
ようやく律子の作業が終わり、ソート・パソコンを閉じ、振り返った。
「だからもっと私たちの言うことを聞けるようにしてあげるねっ!!」
「いやよ・・・何をする気なの・・・変な事しないでよ・・・」
「律子さん、変な事って何なんでようね?」
「和恵さん、私もわかりませんよ、バカだから・・・」
「困っりましたねぇ・・・慶子さんに聞いてみましょうか?」
「そうね、それがいいわ!!」
二人は、誘導尋問に似た手口で慶子をいたぶりにかかった。
「慶子、あなたが言う変な事って何なの?」
「そんなの恥ずかい事、言える訳ないじゃないの!!」
「聞いたぁ~和恵!! 恥ずかしい事なんだって」
「でも律子、恥ずかしい事てどんなの?」
「ん~、わかんないからもう一度、慶子に聞いてみよう!」
「わかった、じゃあ、慶子、恥ずかしい事ってどんな事?」
「・・・」
慶子は、考えた。
とにかく自由の身になる方法を。
そのためには、従うしかない、彼女たちに。
とにかく少しでも早くこの手錠を外してもらいカメラを押さえなくてはと。
「教えてくれないと帰っちゃうよ私たち~」
「・・・わかった言うわ・・・」
「あれ、"わかりました、言います"の間違いじゃないのかなぁ~?」
「違うよ律子! "わかりました、言わせて下さい"じゃないの?」
「そうそう、それよ!」
「じゃあ、慶子、言ってみて!!」
「・・・」
慶子は、悔しかった。
しかし、従わなければならない。
彼女たちの言うことに。