「えー、最後に、男子生徒は前の女子生徒に渡しておいた器具を装着させること
それが出来たものから解散」
不思議だ、教頭先生も若い。いや、特別若いわけじゃないんだけど、少なくとも
30代くらいだろう。そんなことを考えながら、始業式を終える。
教頭先生らしき人が最後にそう付け加えた。
え…?
一瞬私の心が危険を知らせ…
!?
「い…いやっ」
背後に気配を感じて咄嗟に私は軽い悲鳴を上げる。
「ほらっ、おとなしくしな」
恐怖さえ覚える低い声。
そんな声が聞こえてくるかと思えば、私の両腕をがっちりと見知らぬ男につかま
えられてしまう。
やぁっ…
大声を上げようかとも、一瞬考えたのだが周りの女の子がみな静かにそれを受け
ているのをみて、私も声を出さず抵抗するだけにとどまる。
私が抵抗してもさすがに男の力に叶わない…
あっというまに服の上から”器具”を装着させられてしまった。
「あれっ? なに…?」
装着すると両腕が後ろで止められたまま動かせなくなった。
て…じょう?
一瞬、その想像に頭が真っ白になる。
周りを見ると周りの女の子も、まるで私の状況を連想させるように手錠がしっか
りと背中にまわした手に繋げられていた。
「う…そ」
何をされるかと思えば、その男はさっさといなくなった。
私にはそいつの顔を確認する暇もない。いや、普通の男の子だった、別に気が狂
っているわけでもなんでもないのがすぐ分かる。
まるで、急いでいるように…いってしまったのが見えただけ…
残ったのは腕の自由を奪われた女の子だけ…
いったいどうなってるんだろう?
全然、意味が分からない私、いきなり入学式に股をひきさくようなパンツのくっ
ついたスカートの制服かと思えば、手錠をかけられ…
分からないに決まっている。
しかたなく、私はみなと一緒に体育館を出ることにした。
手錠をかけられているので、なんどもバランスを崩しそうになって、あの股をひ
きさいているパンツのせいでだんだんと体が熱くなってきたからだった。
ううっ…
ひどい。こんなことされるところだったなんて…
思わなかった。
いや、こんな所がこの世にあるなどとは、もはや思わなかっただろう。
でも今私は現実に手を拘束されている。
「ね、ねぇ、これからどうするの?」
隣の女の子に聞いてみる。
「パートナーの男の子見つけて、寮にはいるんだって…、なるべくいい人見つけ
たいよね。お互いに…」
にこっと笑ってみせるその女の子。
私同様? ううん、わからないけど、かわいい女の子だった。
女の子にとってかわいい女の子は男の子にとってもそうとは限らないんだろうけ
ど、スタイルもいいし…
私の顔はそんな言葉に顔が引きつってしまう。
寮…
男の子と?
男女で組になって寮にはいると言うことなのだろうか…
私の頭の中に不気味な音楽が流れる。
「はやくみつけないといい男の子取られちゃうよ…」
そう私に言うと、焦っているのかささっと人混みの中に紛れ込んでいってしまう。
さて…
どうしたものだろう…
とりあえず寮に行ってみよう。
もしかしたら、あの女の子の聞き間違いかも知れないし。
儚い希望をもちつつ、こんなことをされている自分の境遇を思って泣きそうにな
った。
逃げ出したい。出来ることなら…
そうだ、こんな所にいられないよ、逃げちゃえばいつもの生活に戻れる。
高校なんて他にもあるよ…
あ、あることを思い出して私は玄関口に急いだ。
この学校は山の中に立てられていて、外との連絡は電車を使うしかない。
いうならば陸の孤島だ。
その私には、電車賃がいくらかなければ、逃げ出すことだって出来ない。
「あれ…」
荷物を置いて置いたはずの所には荷物はなかった。
不自由な腕をひねっては、体からなんとか外すことが出来ないかと試してみるが、
早々簡単にとれそうな代物ではない。
「ど、どこいっちゃたんだろ…」
持ってきた荷物を探して置いたはずの辺りを見回す。
私の腕が自由にならないこと。
それは近くの女の子を見ればすぐに分かることだった。
探しながら思う。
何度も、がっかりさせられた。
がっちりと、両腕に当てられた皮を金属の器具に締め付けられ、手首から肘まで
をしっかりと押さえている。
その器具のベルトが二本私の腕をまとめる形でぎゅっと綴じられていた。
人の手を借りればすぐとれそう…
そんな拘束具。
なのだが、私一人ではその二つのベルトに止められた手錠…というか腕錠はとれ
そうにはない。
「あ…」
私は受付の看板を見つけて、ささっと走り寄った。
もしかしたら誰かが見つけて片づけてしまったのかも知れない…
よね。
「あの、私の荷物置いてなかったでしょうか?」
後ろで手を組んだままカウンターに乗り出して近くの事務のお姉さんに声をかけ
てみた。
「えっと…、新入生ちゃん?」
その問いかけに即座にうなずいた。
また、若い。なんで…?
校長先生も若かったし、ここには若い人以外にはいないんだろうか。
「そうねぇ、荷物はとりあえず卒業まで預かることになってるから…」
??
荷物を返してもらえないってことだろうか?
驚いたのは言うまでもない…
「返してもらえないんですかぁ?」
うぐっ…
いいかげんめちゃくちゃなこの学校に私は、もう泣くしかないかとさえ思う。
「何か必要なものがあったら…、購買でサインすればただで手にはいるから…、
あ、そっかまだ、パートナー決まってないんだ…、いい人選ぶのよ」
お姉さんが私の腕の様子をのぞき見て納得する。
ただ…
何でも無料で売ってると言うことなんだろうか。
パートナー。
まさか二人も同じ事を間違えるはずない。
うぐっ、ここって一体? どうして男の子と、同じ部屋…
あ…
一瞬嫌な想像が頭の中を駆けめぐる。
私は大変なところに来てしまったのかも知れないなと…
「いいパートナーを見つけて、夜にでもしっかり教えて貰いなさいよ。ここの男
の子は知能指数高いから、きっと何でも知ってるわよ?」
冗談めかして…
そんな、こっちは冗談にもなりはしない。
夜…
なんとなく嫌な想像のパズルが一つ埋まった。
それが言っている、正しい。と。
「この…、手錠はなんなんですか?」
私がちょっとお姉さんを睨みながら言うと不思議そうに見つめ返してくる。
「ああ、拘束具のことね。パートナーが決まったら外して貰いなさい…」
「そうじゃなくって…」
的外れな回答にいらだつ私。
「なんでこんなものを…」
「あら、パートナーへの従属の証よ。女の子は男の子の腕の中でというのがここ
のお約束みたいなものだから…」
従属の証…?
パートナーへの…、パートナーの男の子への従属の証という意味なのだろうか。
私が、誰かに従属する…?
いいなりに…、なるってそんなこと嫌に決まって…
嫌な想像。
ここでは私が、男を楽しませる道具でしかないかもしれない…
「いい人選ぶのよ」
またお姉さんが同じことをいった、
話しても私を解放してくれるどころか話している私がどうにかなりそうだった。
「は、はぁ…」
しかたなく私は受付から離れる。
ど、どうしよう…
逃げることなど出来ない?
私は周りを見渡して、ちらほらと見え隠れする後ろ手に手を拘束された女の子を
みくらべた…
誰も取り乱していない。
どうしてこんなことされてるのにみんな黙ってるんだろう?
私がおかしいのかな?
うぐっ、そんなはずない。
「う…、パートナーか…」
見回すと何人か男の子につれられた女の子の姿も一緒にちらほら見える。
あの二人も、あの二人もパートナーなのだろうか…
でもパートナーって、ただの寮の同居人なんだよね。それなのにいったいどうし
て従属の証なのだろう…
ただの寮の同居人、ではない?
何も知らずに私は、寮の方へととことこと歩いていった。
そう、私が考えていた、限界まで悪い想像より遙かに越えた現実が存在している
ことなど知っているはずがない。