「ぺっ…、ぺっ…」
何度も変な味の残る口の中の唾液を地面に吐き出しながら歩く。
敷地が広いせいで歩く距離も長い…
「そんなにまずいか?」
そいつの言葉。
私は、そうして寮生活の第一日目を始めることになった。
「まずいに決まってるでしょう!? インクよ? インク…、信じらんない」
玄関口を入る。
そして、少し部屋番号が書かれている札を見ながら、どこに入ればいいのかも
分からずそいつの後に付いていった。
109その番号が私とそいつの部屋らしい…
そいつが事務所で渡された鍵を使って中に入った。
「ほら、入れ」
躊躇いの後、私も中に入った。
嫌な予感は止まらない…
中にはいると、そいつは内側からまた鍵を差し込んでかちっと鍵をかける。
いったいなんで内側から…
いや、私はそれを見て恐怖感に煽られる。
鍵を中からも…、外に出ることすら、できなくすることが出来る。
私を、閉じ込める?
うぐっ…
私は恐怖のあまり、ぼそっと愚痴をこぼした。
「なんで、口にインクなんかつけてあんな印を…つけなきゃなんな…」
私がそう言いかけたとき…
ぐっと上から頭を押さえつけられた。
「それがご主人様に対するくちの聞き方か?」
え…?
そいつの態度が変わったのに私は驚いた。
「え…、ご主人様って…」
「そうだ。あれに口印を付けたときから、お前は俺の奴隷だ、分かったら、ちゃ
んと奴隷らしい口の聞き方を覚えて欲しいね」
そんな…
私は、奴隷という言葉に自分の立場を知って泣きそうになった。
その言葉が私には、あの事務所で殴られていた女の子と、まるで動物でも躾ける
ように女の子をいたぶる男の子の姿と重なる。
まさか…、うそだよね。
「ほら、ご主人様っていってみろ」
うぐっ…
閉め切られた部屋の中。フローリングの床に、奥に見えるベッドが…一つ。
そして私は外に出るための鍵もそいつに握られている。
もうどうでもいい…
かも。
「ご・・・、ごしゅじんさま…」
私が壊れていく…
その言葉を口にしたとき、奴隷になったのを実感した。
私はもう何も逆らえないかも知れない。
「よし、いい娘だ。そうやっておとなしくいい娘でいれば、かわいがってやるか
ら安心しろ」
そんな、安心なんて出来ない。
「安心なんて、できないっ…」
私の少し高圧的な言葉に、そいつがぎらっと目を光らせる。
「大丈夫だ、自分のものは大切にするさ」
自分のもの…
この私が目の前のこいつ…、うぐっ、ご主人…のもの?
でも…
案外守ってくれるかも知れない。
でも、もし、こいつ…、ご主人さ…、ぐっ…
頭の中で、こいつと呼ぼうとするとさっきの私を見る恐いぎろっとした目が思い
出されてしまうのだった。
ご…主人様の目か…
「さて…」
ご主…人様、が、私の制服姿をなめ回すように見る。
不思議と、いやらしい男とか、そうではなくって、なんか普通に…
それが何でもないことのように私を見るのだ。
普通に…
「まだ、男と付き合ったこと無いんだろ?」
私は答えれなかった。
付き合ったことはないと思う…、一度、私は告白されたことがあって、ちょっと
嬉しかったからちょっと仲良かった男の子がいたことがある。
なんとなく…
忘れ去ってしまった。
なにか、私を抱擁してくれるような大きな存在を欲しかったからかもしれない。
「答えなさい」
うぐっ…
「…ない…です」
答えられなかったのは、奴隷みたいな言葉を出すがいやだったからだった。
口に出してしまった私の心が言っている。
「そっか、それならちょうどいいや。俺も初めてだから」
初めて…? 何が?
それを自分に聞いたとき、私は即座に苦しい回答を導き出してしまう。
もしかしたら、ご主人様は男だから…
女の子にしたいこと。
「う…、へんなことしませんよね?」
言葉が、媚びている。
くやしいけど、明らかにここではこいつの方が有利なのだ。
「ああ、初めっからはな。とりあえず、過去を忘れ去って貰うためにも、さっそ
く、まゆちゃんの体をもらおうかな」
え…?
私は、へんなこと、とはもちろんそう言う意味で言っていた。
もっと…、変なことがあるのだろうか…?
さすがの私もそこまでは想像が及びもしない。
「そ、そんな…、許して…、他のことだったら何してもいいから…」
私の言葉を聞いている風ではなかった。
だめ…
「ほら…、そんなのにしがみつく過去は忘れた方が良いよ」
ご主人様、の言葉は真実味があった。
現に、今にもうばわれそうな私の大切な部分は、このいやらしい制服に二つにひ
きさかれて中に下着をめり込ませている。
「いや…」
私は自由を奪われている両腕をかみしめながら言った。
そっと私の両肩をご主人様、の両手にしっかりとつかまれてぐっと体をご主人様
の方に引き寄せられていく。
抵抗するのが恐かった…
「ねぇ、こんな事が普通の所なの?」
「ああ…」
そっか、私が今してることは普通のことなのかな。
好きじゃなくてもいいのかな…
ううん、彼は私のことが、あるいは好きなのかも知れない。だから、そう言う意
味では二人の間に気持ちはある。
私の同意なんて関係ない…
女の子は自分を好きな男に体をゆだねて、抱かれるだけ。
「ねぇ…」
私がもう一つ聞こうとしたとき…
ご主人様が、私の唇を奪っていった。確か、初めてだったと思う。
ちょっとだけ男の人を感じて、私にはまだ恐かった。
「んんっ…」
く、苦しいよ…、息が出来ないよ…
ぷはぁ…
長いキス。これからしようとしていることから考えれば、それでも簡素だったの
かもしれない。
厳しい目に私の口から出る言葉も牽制される。
「あな…、ご…、ご主人様は、まゆのことが好きなの?」
同意が欲しい…
私の気持ちは何とかなる、私のことを好きなら納得できる。
無理矢理にでも納得しなかったら、私はもう体を奪われたら生きていけない…
うぐっ…
なかなかご主人様は答えなかった。
「そうだな」
少し考えてみせる。
「お前が今みたいに従順におとなしくしている間はな」